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2006年8月後半
『タイヨウのうた』を観る。
テレビドラマにもなったが、映画のほうがオリジナルで、ストーリーはテレビドラマ版よりずっとシンプルだった。XPという病気のごく普通の女の子が、ごく普通の高校生と知り合う。XPの少女、雨音薫役のYUIが最初に歌うときその歌を聴いているだけで泣けてくる。歌詞が雨音薫の気持ちを表して、歌と物語が一体化している。
物語は彼女と彼が出会うときにピークを迎え、あとは切なくもあっけない死を描く静かな物語だ。その間にはもっといろんな出来事があるはずだが、それらは省略されることで逆に大きな喪失感を感じる。
[ 『タイヨウのうた』 監督小泉徳広 ]
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アテネ・フランセ文化センターで、篠崎誠監督の新作短編「殺しのはらわた」の試写を観る。真面目にB級アクションに徹した映画で、かっこよくも可笑しい。映画の後、友人と飲む。
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友人とビールを飲む会。
ようやく『上手なミステリの書き方教えます』(浦賀和宏 講談社ノベルス)を読了。逆説的なタイトルで、章の冒頭に書かれたミステリのルールとまさに反対の物語が展開する。その上、嫌というほどオタク論が続いたり、ほとんどポルノ小説的なオタク萌え小説の引用、メタフィクション的な展開もあるが、それでも変格的なミステリになっているという代物。実験的な面白さはあるのだけれど、ちょっと読んでいて辛い。青春小説で終わる結末で怒涛のカタルシスを得られたら、終わりよければすべて良しという風に思ったかもしれないが、カタルシス不足か。
『容疑者Xの献身』(東野圭吾 文藝春秋)を読み始める。
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『日本沈没』を観てくる。
なんだか沈没のメリハリがない気がした。なんとなく、気がついたらもう沈没始まってるのか、みたいな感じ。わざとらしい盛り上げ方もなんだけど、もうちょっと日本沈没の驚きとか欲しかった。
きっと、観る方にも「日本沈没」が今ではそれほど衝撃ではなくなってしまったせいもあるのかもしれない。小説『日本沈没』が発表された最初の頃には衝撃だったのだが、今でそれほどではない。作り手も日本沈没ありきで始まり、沈没するなんてあるわけないという衝撃を与えられなかった気がする。
やっぱり、日本が沈没するなんてありえない、その日本が本当に沈没してしまうという衝撃が欲しかった。
ただ、各地で被害が広がる様子が坦々と描かれ、日本が沈没していくまでが坦々と描かれる、というのは嫌いではない。
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『容疑者Xの献身』読了。面白かった。
直木賞を受賞したり、「本格ミステリ」談義で話題になったり、話題性の高い作品だったが、ようやく読んだ。
ガリレオ先生シリーズの長編だが、短編とは少しばかり趣が違う。殺人事件の犯人側の描写から始まる倒叙もので、まさに犯人対探偵の知恵比べなのだが、犯人と探偵の関係が切ないことになっている。犯人の立場もね。
事件は解決したいが、解決してしまうのも悲しい結末になる。それは事件の最初からわかっていることなのだが。
あらゆる材料は読者にも同時に提供されて、フェアな展開をしていく。ガリレオ先生こと湯川がふとした言葉からはたと気づくときところが描写されるので、こちらもそれに触発されて真実に気づかされる。
そういう点では、一つ一つの謎を湯川が解くたびに(謎の説明は明示的に書かれないが)読者も謎を解いていく。それゆえ語ろうとしない湯川の苦悩がひしひしと伝わってくる。
湯川が真実に気がついた瞬間、こちらも驚かされるのだが、その時点で実は叙述トリック的な仕掛けがあったことに気づかされる。フェアでないとすれば、唯一この部分だが、これが最大のトリックなので語るわけにはいかない。それに、読者は倒叙ものとして犯人を明らかにされている分、探偵より有利な立場にあるわけで、アンフェアとはいえないと思う。
物語の中で、数学の問題に対するよい解答にはエレガントさがあるということが語られるが、まさにこの物語を読むこと自体がエレガントな解答を解いていくような快感がある。
(しかし正解の答え合わせは巻末になるわけで、残念ながら湯川と同時に問題を解決していくことができなかった読者はその快楽を得られないが、その代わり巻末に明らかになる真相にきっと十分驚くことができると思う。)
そして、文学的というよりむしろ数学的、パズル的、ゲーム的な小説として読んでいた読者に対して、最後10行程度に凝縮された感情の発露に思わず泣かされる。
[ 『容疑者Xの献身』 東野圭吾 文藝春秋 ]
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『ハチミツとクローバー』を観る。
人気の少女漫画の映画化とか、ポスターの5人の若者が並んでいる写真とか、単純な恋愛ものなんだろうなと思っていた。それなのに観てみたいと思ったのは、主演の一人蒼井優が気になったからである。しかし観て、驚いた。全然思っていたのと違ったことに驚いたのである。そして、一体これはなんなんだろうと思ったのである。
ものすごく不思議な世界のような気がした。単に、美大生たちの恋愛を中心にした青春ストーリーで、そう書くと元々想像していたのとそんなに違わないと思うのだが、全くそう思えなかった。ドラマや漫画の典型的なラブストーリーとは違うからなのかもしれない。その場合でも、一本の映画が終わった時点で、区切りとして一つの結論があると思うのだが、観終わったときにこれで終わるのかという気がした。物語的には終りらしくまとめているけれど、いろいろなもやもやした気持ちは全然整理がつかないままじゃないか、と思ったのだ。でも、人生の切り取った一シーンなんて、こんな風に歯切れの悪い方が現実に近いわけだし、そういう描き方っていうのもありなのかもしれない。
そんなわけで、観終わったときに、この映画はよかったとも、好きだともいえないのだが、嫌いじゃないし、それよりむしろよくわからない、だけど何がよくわからないのかよくわからない、と思った。この不思議さは、原作の持ち味なんだろうか、それとも監督が作り上げたものなのだろうか、話の流れも面白かったので脚本の力なのかなどといろいろ考えた。
映画のクレジットで脚本が河原雅彦だと知ったが、映画の公式サイトをみてみたら、監督自身が河原雅彦の脚本をさらに何回も改稿しているようだ。そして、高田監督はCM出身の人だと知り、なんとなく判ったような気がした。この映画の90%くらいは監督の持ち味かもしれない。しかし、こういう映画を作ろうとしたことを考えると、原作の『ハチミツとクローバー』を読まなくちゃいけないと思った。
音楽もちょっと気に入ったのだが、これもクレジットを見ていたら、菅野よう子ということでサントラで聴いてみたくなった。
この映画、もう一回観てみたい。たぶん、そう思ったのだから、好きな映画だったといってもいいと思う。
[ 『ハチミツとクローバー』 監督高田雅博 ]
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やることが多くて忙しい。バタバタと追われて一日が過ぎて、夜は送別会。
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週末だが、やることが多すぎる。手帳にやることを書き出して、久々に明日の夜までの時間単位のスケジュールを立てる。
夕方から『スーパーマン・リターンズ』を観にいく。役者が変わっているのだが、リターンズのタイトル通り、前作からの続きで帰ってきたスーパーマンの話だった。そんなに期待していなかったのだが、意外と面白かった。スーパーマンが飛ぶのはスピード感があるし、ロイスとの恋の行方というのもなかなかいい。
夜は飲んで帰る。スケジュールはなかなかはかどらない。
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寝坊して昼頃起きる。スケジュール通りにことは運ばない。1件仕掛かり中、2件やり残し。もうちょっと頑張る。
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『チョコレートコスモス』(恩田陸 毎日新聞社)を読んだ。恩田陸の中でもかなり面白かったのだが、紹介が難しい。冒頭から、謎めいた始まり方に、超常現象か幻想的な事件が起こるのかと一気に物語に引き込まれる。そこまでは言える。しかし紹介が難しいのは、その後だんだん明らかになっていく物語について、触れたくないからである。
恩田陸ファンの人はいうまでもなく読むのでよしとする。いくつかの恩田陸作品は好きなのだが、つまらないと思ったものもあって迷っている人は迷わず読むべきである。あとは恩田陸といわれても知らないという人は、14ページまで、冒頭の11ページほど立ち読みでもなんでも読んでみて引き込まれなかったら棚に戻せばいい。
冒頭の出来事からも、「チョコレートコスモス」というタイトルからも、一体どんな物語なのか想像がつかないのだが、なんとなく輪郭が見えてくるのはそれぞれの場所でそれぞれの人生を生きている数人の人物たち、彼らがいずれ出会うのだろうということが見えてくると物語の輪郭も見えてくる。先が見えるというわけでもないが、大体の結末が想像できてくるのだがそれでつまらなくなることは全くない。一体、そのゴールに繋がっていくのか。
内容にちょっと触れるが、最後までスリリングだったのは、難題にぶつかったときのそれぞれの人物たちの対応が興味深かったのと、最後に飛鳥がどう解答を出すのか、そしてそれが本当に物語の人物たちにはもちろん読者の期待をも裏切らない解答が出せるのかという点に尽きると思う。
[ 『チョコレートコスモス』 恩田陸 毎日新聞社 ]
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